インドの高級パンアジア外食チェーンFOOが、ベンガルール・インディラナガルに市内3店目となる新店を開いた。約2,660平方フィートで市内では同社最大。目を引くのは内装や100種を超えるアジアンタパスよりも、飲み物のラインナップに「Foo Brew」という自家醸造のジャパニーズライスビールを加え、これをベンガルール市場に初めて持ち込んだ点だ。日本の酒蔵やクラフトビール会社がインド外食に入る手がかりとして、この1店の動きは見ておく価値がある。
ベンガルール最大店で「米ビール」を看板に据えたFOO
新店を運営するのはPebble Street Hospitality。ライアン・タム、キーナン・タムの兄弟が率いる外食企業で、FOOブランドはインド全土で15店、うちムンバイに10店を構える(2026年5月時点)。今回のインディラナガル店はベンガルール3店目で、赤タイルの外観にコバルトブルーのアーチ入口、削り出しの石を使ったバーカウンターを中心に据えた造りになっている。
メニューは寿司・点心・Nikkei(日系ペルー)系の皿を含む100種超のアジアンタパス。柚子・味噌・日本酒を使ったカクテル、厳選した日本酒に加え、目玉として自家製のジャパニーズライスビール「Foo Brew」を出す。軽くドライな味わいで、寿司や点心、小皿料理に合わせる設計とされている。同社にとってFoo Brewをベンガルールで提供するのはこれが初めてだ。
なぜ外食チェーンが自分で「日本の酒」をつくるのか
ここで日本企業が注目すべきは、酒そのものより「酒を店の差別化装置に使い始めた」という構図だ。パンアジア業態はインドの都市部で数を増やし、料理だけでは横並びになりやすい。そこでFOOは、柚子・味噌のカクテルや日本酒に加え、他店では飲めない自社ブランドの米ビールを置くことで「ここでしか飲めない一杯」をつくった。料理の差ではなく飲み物の差で選ばれにいく発想だ。
裏を返せば、インドの高級外食は今、日本発の酒類に対して強い引き合いを持っている。国際的にも日本酒はレストラン経由の消費が中心で、Japanese Sake Marketの調査では2024年に世界の日本酒販売の45%超がレストラン・居酒屋チャネル経由だったとされる。つまり日本の酒は「小売の棚」より「店の一杯」で広がる商材であり、インドでその入口になっているのが、こうしたパンアジア高級店だ。
日本の酒類メーカーへの示唆──入るなら「棚」でなく「メニュー」から
インドは州ごとに酒類規制・免許・課税が分かれ、輸入酒の値付けも高くなりやすい。いきなり全国流通やスーパーの棚を狙うのは重い。だからこそ、FOOのような多店舗の高級外食を1社選び、そのドリンクメニューに自社銘柄を載せてもらう入り方が現実的だ。ベンガルールやムンバイに10店以上を持つチェーンなら、1社と組むだけで複数都市の富裕層に一度に届く。
具体的な一手として、日本の中小の酒蔵やクラフトビール会社は、こうしたチェーンの飲料開発担当に「Foo Brewのように寿司・点心に合わせる一杯」を共同開発の形で提案するのが入りやすい。自社ブランドをそのまま押し込むのではなく、店側のメニュー設計に溶け込む前提で持ち込む。この考え方は、日本式バーがインド高級飲食のブランド軸になる動きとも重なる。バーやドリンクを軸に据える店ほど、日本の酒類を必要としている。
「飲む文化」を輸入する動きの一部として読む
Foo Brewの投入は単発の話ではない。インドの外食では、食後や仲間内で一杯やる「飲みの体験」を商品として設計する動きが広がっている。日本発のハイボールや飲み会文化を取り込もうとするハイボールを軸にした外食の事例も出ており、そこには日本の酒類ブランドが乗る余地がある。FOOが米ビールで差をつけたのと同じ枠で、日本のビール・ハイボール・日本酒がメニューに入る道が開けている。
飲みの体験を売る店は、料理よりも滞在時間と客単価を伸ばしやすい。音と食を組み合わせた夜の体験を売るバーの登場のように、インド都市部の「夜の体験市場」はまだ空白が多い。日本の酒類メーカーにとって、この空白を埋める店のメニューに最初から入っておくことが、後から棚を取りにいくより効率がよい。
実務メモ──1店と組む前に確認すべきこと
インドで外食チャネル経由の酒類提供を検討する場合、確認しておきたい実務ポイントを挙げる。
- 州ごとの酒類免許・輸入規制。店舗のある州で自社商材の提供が可能か
- 提供形態。輸入完成品を出すのか、Foo Brewのように現地醸造・共同開発にするのか
- 相手チェーンの出店都市と客層。1社で何都市・何店に届くか
- メニュー上の位置づけ。単体の酒として売るか、料理とのペアリングで売るか
特に「現地でつくるか、輸入するか」は価格と規制の両面で結果が大きく変わる。Foo Brewが自家醸造という形を取っている点は、輸入コストと規制を避ける現地化の一例として参考になる。
まとめ──次にやるべき一手
FOOが米ビールで店の差をつくったという1店の動きは、インドの高級外食が日本の酒類を必要としているサインだ。日本の酒蔵・クラフトビール会社が今やるべきは、全国流通を夢見る前に、多店舗の高級外食チェーンを1社選び、そのドリンクメニューに合わせた一杯を提案することだ。まずはベンガルール・ムンバイに複数店を持つパンアジア業態を対象に、寿司・点心に合わせる自社銘柄の共同開発を打診するところから始めたい。
